きょうも地球は

 このなにもない宇宙に、僕は今いる。何もないように見えて、実はなにかがあるのではないかと来てみたけれど、本当に何もない。ネットは通じるし、星はとても綺麗だけど、この閉鎖空間に、あるものはほとんどない。

 限られた人間だけが来ることのできるこの空間に、僕は今いる。ここで過ごす日々は、この無重力空間は、とても楽で、しかし、何かが足りない。足りないものだらけなのだけど、満たされてもいるかもしれない。私は選ばれてここに来たのだ。それは誇っていいはずであるのに、なぜか、そうできない自分がいる。自分の仕事を命をかけて全うすること。私は命をかけてここに来て、仕事をし、いや、これは仕事なのだろうか。時々思う。なぜ私はここにいるのだろう。宇宙を見ていると何もかもがどうでもよくなるときがある。投げ出したいわけではなくなんとなく虚しくなる。宇宙に人が暮らしておかしくならないわけがない、と思う。ここは無重力空間、何もない場所。そして、君のいない場所。

 僕は命をかけてここに来て、命をかけて地球に還る。君のいる土地に。毎日君と通信しても、私は満たされた気持ちになれない。ただの気休めに過ぎないと思う。どうあっても地球に帰りたい。私は死ぬのが怖い。独りだったなら、そう思わなかっただろうか。やはり、死ぬのは怖いことだと思う。君を懐(いだ)けない怖さを私は知ってしまった。

 この『旅』のさなか、地球で父が亡くなった。父に叱られることも、もうない。

 宇宙船のブーストが、宙を切る。ここから切り離されて、君のもとに真っ直ぐに向かう。私は、宇宙を愛していただろうか。私はここで死んでも構わないと思えただろうか。宇宙は、私を愛しているのだろうか。

 愛を超えたところに私はいて、でも、愛を超えられない。私は地球に還りたい。君に逢いたい。愛の審判は来週下される。それは命の審判であり、宇宙のしめしなのだ。

 全ての私に関わった人間を、私は信じている。その気持ちが私を穏やかにする。だから私は宇宙に来ることができたし、陸に還ることができるだろう。

 父は逝ってしまった。新たな命はもうすぐ生まれる。私は地球に還る。生命は一つ減り、一つ増え、そして一つ還る。

 今日も地球は在る。

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