笑う月

 ふと見上げると、月。ふたりで歩いている男の子と女の子。

「月が綺麗だー」「そうだねー」

 空には満月。迂闊にも例の言葉を口走ってしまった男。とっさに弁解する。

「今の告白じゃないからね」「えー? そうなのー?」「そうならちゃんと言うし」「あ、そう。うふふ」「漱石の時代とは違うんだよ」

 ドキドキを隠せないまま、二人は歩く。

「んじゃあ、はっきり言ってほしいな!」

 意を決して女の子は言うのだが。

「……また今度ゆっくりね」

 すっ、とかわされる。

「えー? なんでだよぉー」「今日は気分が乗らないから」「……。」

 もう一度、魔法の言葉を発する男の子。

「……月が綺麗ですね。」「今のは告白でしょ?」「いや、おれは漱石じゃないから」「ウソだー」「どこが漱石だよ」「いや、なんかやけにあらたまってたし」「そう?」

 とぼける男の子。月が二人を追いかけてくる。意を決して言う女の子。

「うぅ……。月が綺麗でございますなぁ」「今のは告った?」「そうだよ。どっかの意気地なしとは違いますから」

 満月といえば、もう一つの伝説。

「……狼になっても?」

「いいよ」

(その一部始終を見ていた月が、おれには笑ってるように見えたんだ。)

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