食事と会話

「こんど、あたしとお食事しませんか?」「いいですけど、僕お酒飲まないんです」「じゃあ、ランチにしますかね」「いや、夜の方がいいです。昼だとゆっくりできないでしょう」「んじゃあ、ランチとディナーで!」「いいっすよ。じゃあとりあえずランチしますか」「あした?」「了解ですー」

 翌日の昼。待ち合わせの時間。正直、僕は会社の周りの店には詳しくない。情けない話だけど、行く店は任せてしまおう。

「お待たせー、じゃあ行きますか! どこにする?」「僕くわしくないんでお任せします」「あ、そう。いつもお弁当なの?」「そうですねー、お金貯めてるんです」「そうなんだ? じゃあイタリアンにしよっか」「お任せですー」「んじゃあ、夜もあたしが決めて良い? 行ってみたいところがあるの」「よろしくです」「なんか緊張するね」「そうですねー。わはは」「仕事は順調? なんか訊きたいことないの」「うーん、、」「あ、この店ね。いい?」「はい、大丈夫です。どこでも」

 ちょっと高そうな店だけど大丈夫だろうか。貯めてるなんて言わなければ良かった。

「あたしが奢るから。気にしなくていいわよ」「えー、悪いですよ」「いいのよ、誘ったのあたしだし」「じゃあ、夜は僕が出します。そしたら、店も僕のよく行く店で良いですか? もう予約とかしてますか?」「あ、そう。じゃあ任せるわ。まだ予約してないし」

 良い感じのお店だ。デートで来るのだろうか。みんな笑顔で料理を食べている。おいしそう。

「ここね、元彼とずーっと前に来たのよ。美味しいのよ」「あ、そうなんですか」「今いるか訊かないの?」「いないんですか?」「いないよー。君は? 彼女いないの?」「いないっすね、もうずっと」「ふーん、そうなんだ」

 唐突に始まってしまった会話にドギマギする自分。落ち着け。シェフらしき人がメニューを持って来た。

「何にしよっかなー。うーん、じゃあ、本日のおすすめパスタで!」「あ、じゃあ、僕も同じので」「もうどれくらい彼女いないの?」「5年くらいですかねー。仕事が忙しくて彼女どころじゃないっす」「ふーん」「なんか、人を好きにならないし」「そうなんだ。充実してるのは良いことね」「まぁ、、、そうですね」「でも、仕事だけってのもねー。女っ気ないのに慣れると、結婚遠いよー。あたしが言えることじゃないけど」「結婚したいんですけどねー。子供も欲しいし」「ふーん。良いパパになりそうじゃない?」「そうですか? だと良いんですけど」「あ、料理きた」

 互いに探り合ってるような、ぎこちないけど、楽しい会話。この人のことを知ることがとてもうれしいし、ドキドキする。もっと話していたかった。

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