かつて月にまで行った文明

 浮気した彼氏にフラれ、話を聞いてもらうために友達の家に来た。必死に励まそうとしてくれる友人が言うことには。
「そんなこと、宇宙規模で言ったら、大したことじゃないよ」「そうかもね。でもわたしには大事なことなのよ」「人類はむかし月まで行ったんだよ? 男が浮気したくらいでなんだー」「そうだね。でもわたしには……」
 うまく心を整理できないまま、よくわからない話が始まってしまった。宇宙は宇宙だが、彼は彼だ。
「だけど、宇宙は広いんだよ。地球だって広いし、いくらでも人はいるんだよ! そんなこと、気にするなー!」「うん、ありがとう」「自分をちっぽけだと思えー! みんなちっぽけなんだー! そう思えばどーでもよくなるよ! ほら」「うん、そだね」
 いきなりフラれ話に宇宙や月を持ち出す友人に戸惑いつつも、そんな気分になってくる。でもまだ立ち直ってはいない気がする。
「そんなことより、笑って? ほら、楽しいことしよっ」「えー、無理だよぉ」「ほらほら~」「わかった、わかったから!」「いーや、その顔はわかってない顔だ! 宇宙人め、やっつけろー」「きゃー」
 二人で呑み始めると時間が経つのは、はやい。ちょっと落ち着くと、途端にいろんなことがどうでも良い気分になってくる。
「そう考えると、人類って月に行ったんだよねぇ」「そうだねえ」「月にタッチして戻ってきたの? 人間のどこにそんなパワーが!?」「そうだねえ」「すっごいよねぇ。よっしゃ、わたしも宇宙行っちゃるー! 浮気なんてどんとこいじゃー」「おー、いいねー、その調子、その調子ぃ」

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