服についてのエトセトラ(夏)

 道の向こうからガラの悪いお兄さんが歩いてくる。なんだか見慣れた格好。
「おい、コラ。真似してんじゃねぇぞ」
「服いっしょっすねー。わはは」
「今すぐ脱げコラ」
「なんでですかヤですよ」
 夏真っ盛りだけど、サスガに裸になるのはまずい。Tシャツもパンツも同じ。靴も同じ。ちょっと気まずい。
「あ? それどこで買った?」
「いや、覚えてないですよ。一緒かもしんないすねー」
「俺のはな、全部嫁が買ってるからよ、知らねぇんだ。どこで買ってんだ、あいつ?」
「これは、どこだったかなぁ? でも全部お揃いすね。わはー」
「ガラにもねぇ服着るもんじゃねぇな。こんなガキと同じかよ」
「写真撮りません? あっ、エスエヌエスとかまずいっすか?」
「良いがよ、ナメてんのか? あ?」
「じゃあ、顔見えないようにしますんで……はい」
知らないガラの悪いお兄さんと写真を撮る。なんだか仲良くなれたような気がする。
「それにしてもこんなに雰囲気違うのに同じ服って面白いすね」
「まぁ、俺は適当に着てっから」
「僕は真面目に着てたんすけどね。うーん」
「どうした? 光栄だろうが、俺といっしょなんやぞ!」
「お兄さん誰すか?」
「いや、名乗るほどのもんじゃねぇけどよ」
「あー! もしかしてビビってる?」
「あ?」
「いや、すみません」
 不思議な縁があるものだ。たぶん同じ服を着ていなかったら、一生話すこともなかったろう二人。夏の盛りに、すれ違った二人。
「暑いすね」
「嫁がアイス待ってるからよ、行くわ」
「はい〜。僕も、アイス買おうかしら」

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