服についてのエトセトラ(冬)

「まちがえたー!」
 散歩していると、水をぶっかけられた。冬空の下である。
「す、すみません」
「……。」
 バケツに入った水を草木に撒いていたようだけど、何を間違えることがあるのかと。下半身びしょ濡れである。
「すみません、今タオル持って来ますんで。ほんとにすんません!」
「……。」
 家にいったん入ったオヤジがいそいそとタオルを持って出てくる。そんなに大したスーツでもないけど、濡れていることは濡れている。寒い……。
「家近所ですか? いやー! はっはっは」
「近所ですし、もう帰るんで大丈夫ですよ。ありがとう」
「ちょっと待っててください」
「……?」
 またオヤジが家の中に入ってく。すぐに出て来たが何か持っている。
「これ、クリーニング代……本当にすみません」
「いや、大丈夫ですよ。ちょっと濡れただけですし」
「やー、気持ちが済みませんわ。こんなに寒いのに。風邪ひいたらあれだし。受け取ってください」
 けっこう押しの強い人である。無理やり銀行の封筒を渡される。
「いや、でも……」
「これも何かの縁、なんかうまいもんでも食ってください、ね?」
「はぁ、そうですか、」
 お言葉に甘えて、受け取る。クリーニングするほどでもないし、どうしたものか。
「立派なお庭ですよね。よくこの前通るんですよ」
「いや、うちは野菜専門なもんで。よかったら何か持って行きますか?」
「いや! 大丈夫です。これ以上甘えるわけには!」
「そうですか。じゃあまた」
 家に帰って封筒の中をふっと見ると枯葉が入っていた。これ、タヌキが使うやつじゃん。

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