遠く離れて

 ときどきなんで自分がここにいるのかわからなくなる。ここは不便ではないし、困ったこともほとんどない。むしろ生活空間としてはとても楽なのだけど、しかし何かが足りない。
 宇宙に来ることが当たり前になっても、全然ここに慣れない。この宇宙という異空間は、何億年も前からずっと変わらずにあるのに、人類にとってはまだ慣れない世界だ。初めて人が宇宙に飛び出てまだ100年も経ってないけれど、まだ宇宙で暮らすということは、人類にとって特別なことなのだ。
 こんな時代になっても相変わらず人は人を愛して、あるいは憎んで、その命はゴミのように扱われたり、太古と同じように丁重に扱われたりしている。どこにいたって、人間というものは変わらないみたいだ。
 ここに暮らして一年になるが、宇宙の一年も地球の一年も、変わらず長いようで短い。振り返ればあっという間だが、先を見ると途轍もなく長く感じる。
 いつになったらこの世界に慣れるだろう。この空間にも、生活にも、君なしの世界にも。定期的に連絡を取っているとはいえ、君に触れることは叶わない。どこか存在しているようで、非存在の気がしてくる。プログラミングされた君とどこかで入れ替わったとしても、僕はそれに気がつく自信がない。君を君と疑ってしまうことほどの不幸を、僕は知らない。
 こんなに星々が綺麗なのに、僕は孤独だ。独りなんだ、どこまでも。どこまでも続くこの宇宙で、僕は孤独に震えてる。君に逢いたい。触れたい。抱きたい。キスしたい。ここにいる仲間たちは、君の代わりになれそうにない。君は、君なんだ。
 
 宙から見た地球が美しいのは、そこに君がいるから。あの灯の一つは君が点けたひかり。僕はこうしてここでそれを見てる。すごく美しい。君に見せなくては。
 ここには何もないし、誰もいない。君に逢いたい。

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