花落ちる

 街でばったり出遭った二人。「お茶しない? 時間ある?」で始まる小話。
 「なんで? いやよ。」
 唐突な出会いに戸惑う女性。応える男。
 「許して、なんて言えないけど、もう忘れてると思ってた」「忘れるわけない。許してもいない。」
 なにか訳ありな二人である。繁華街の中、人が次々と通り過ぎてく。日差しは強く、みな速足だ。そこだけ止まった時間。
 「一生許さないと思う。会うと思い出すからヤなの」「そう……だよね。」
 離れる二人の距離。女は大声で言った。人目も気にせずに。男は彼女に聞こえるかどうかもわからないくらいの微声で応える。
 「あの頃は僕も君も若かった」「そんなの関係ない。人格の問題」「そう……」
 男性は近づこうとするが、距離を取ろうとする女。男は手ぶらだが、女性は袋をたくさん下げている。か細い声で男は言う。
 「どうしたら許してくれる?」「こんなに時間経ってるのに、もうムリ。どうしようもないんじゃない? 自分で考えたら? そういうとこ、変わんないよね」
 時間はなにも解決せず、ただただ二人の時間が流れていただけだったのだ。
 「いや、でも、連絡取れなかったから。怒ってたし」「怒ってた? 当たり前でしょ? 連絡なんて、しようと思えばいくらでもできたと思うけど」
 彼女の下げたクロッカスの鉢から房がポトリと落ちる。
 「そうやって、避けてたんでしょう?」
 行きつ戻りつしながら、男性は遠ざかっていく。往く女性。
 「君が閉じたら、もう開かないことはわかってた。でも、ああするしかなかったんだ。僕には知恵がなかったし、経験がなかった」
 男性は独り呟く。もう誰も聞いてはいない。
 往く女性。

コメント

このブログの人気の投稿

寝付けない私に、母が話してくれたこと

どう思われてもいいという思考

つっかえたものを取ること

人とひとが出会うことの表現の可能性を知りたい

言葉の力を思考/施行する

正しいからしても良いと思うと、間違っていることに気がつかない

補助輪