月という女性

 目の前に月のような女性がいる。どう言い表したらいいのかわからないのでそう形容するが、まるで月のようだ。
 ただ明るいという意味でなく、夜空を照らす暗闇の中に明かりと陰を持っている。パッと輝いていると思う一方、きちんと闇も持っている。
 ただ美しいというわけではない。凛としているといえばいいだろうか。私が月に感じる何かを、この女性からも感じる。
 暗闇に浮かぶ月。この女性が闇夜にいたならば、月のように光り輝いているのではないか。月の太陽による反射の輝きのように、この女だって何かの光を受けて輝いているのかもしれないと思ったりする。己の力で光らないという儚さ。一度物に当たっているからこそ感じる優しいひかり。そういう類の優しさを、この人は放っているのかもしれない。
 なんというか、この人そのものが優しいというよりも、この人の振る舞いが優しいのだ。この人に関わったなにもかもが、優しく私の元に届く。その妖艶な風貌だけでなく、立ち居振る舞い、仕草、言葉の発し方、彼女を構成する何もかもが、月を思わせる。
 月のように美しいおんな。
 真昼の月を見たことがあるだろうか。白い月。夜とは違った表情の月。どこかあっけらかんとしていて、その存在はすこし薄い。私は見つけるとうれしくなる。陽の光にも埋もれない。自分で光っているわけではないのにその光を失わない。他者がいるから自らが輝けるのだという持念。満月が昼間に見えないように、この女性も昼間にはどこか欠けているのかもしれない。夜こそが彼女の時間。独壇場。夜だからこそ、その妖艶な輝きはいっそう増すのだ。
 月がわが惑星に影響するように、この女性もきっと私に影響を及ぼすだろう。この人が存在しているというだけで生まれるその波動は、私を捉えて離さない。雲が出れば、月は見えなくなってしまう。しかし確実にわが惑星に影響している。そこに変わらず存在しているからだ。この女性も、そこに存在しているというだけで影響を及ぼす女性なのだと思う。本人は意図しなくとも、男を変えてしまう魔性。
 月に入れ込むことは、わたくしの気を、狂わせる。
 
 ※この文章はフィクションです。

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