どうして僕から離れていくときはそんなに可愛いの
寝ぼけた君は、こんなことを言ってきた。
「どうして僕から離れていくときはそんなに可愛いの」
恋人を自分のものにしていたい人にとって、少しでもその人から離れることはたぶん、苦痛なんだろう。それも、こんな、かわいくおめかしなんかして自分の元を離れてく、ってことは。出かけた先で何かあるのかもしれない、と不安なのかもしれない。
家を出るときには化粧をするというような当たり前のことだって、寝ぼけた人には通用しない。ただ、めかし込んだ恋人が自分の元を離れていってしまう、という事実だけが、寝ぼけ眼を刺激しているというに過ぎない。
「あら? あなたといるときは可愛くないのかしらん?」
イジワルして言う私。
「そんなことないけど。でも、今の方がステキ」
「あらそう。ありがとう」
いつもステキであって欲しいという気持ちが現れている言葉に、私はなんだか嬉しくなった。なんだか自分を認められたような気がして。一緒に暮らす彼とはもう長い。だから、いろんな面を見せている。それでも私のことを魅力的だと思ってくれているのだ、という感触。そして、私を失うことを恐れてくれているのかもしれない。そんなに深く考えていないかもしれないけれど、というか全然見当違いのことを私は考えているのかもしれない。そんなことを考えてるうちに時間になった。
ただ、離れていくときに可愛くしていく人を不思議に思っているというだけに過ぎないのかもしれない。そこに僕はいないのに、なんでそんなにめかしこむの、と駄々をコネていたのかも。
いや、もっと、素朴な疑問だったのかもしれない。彼の中から化粧をするという社会的行為の概念がすっぽり抜け落ちてしまっている。寝ぼけた人間は厄介で、かわいい。そんなことを言ったことだって、きっと明日には覚えていないだろう。
まぁいいや。いろんな優越感を抱えたまま、私はアパートを出たのだった。
「どうして僕から離れていくときはそんなに可愛いの」
恋人を自分のものにしていたい人にとって、少しでもその人から離れることはたぶん、苦痛なんだろう。それも、こんな、かわいくおめかしなんかして自分の元を離れてく、ってことは。出かけた先で何かあるのかもしれない、と不安なのかもしれない。
家を出るときには化粧をするというような当たり前のことだって、寝ぼけた人には通用しない。ただ、めかし込んだ恋人が自分の元を離れていってしまう、という事実だけが、寝ぼけ眼を刺激しているというに過ぎない。
「あら? あなたといるときは可愛くないのかしらん?」
イジワルして言う私。
「そんなことないけど。でも、今の方がステキ」
「あらそう。ありがとう」
いつもステキであって欲しいという気持ちが現れている言葉に、私はなんだか嬉しくなった。なんだか自分を認められたような気がして。一緒に暮らす彼とはもう長い。だから、いろんな面を見せている。それでも私のことを魅力的だと思ってくれているのだ、という感触。そして、私を失うことを恐れてくれているのかもしれない。そんなに深く考えていないかもしれないけれど、というか全然見当違いのことを私は考えているのかもしれない。そんなことを考えてるうちに時間になった。
ただ、離れていくときに可愛くしていく人を不思議に思っているというだけに過ぎないのかもしれない。そこに僕はいないのに、なんでそんなにめかしこむの、と駄々をコネていたのかも。
いや、もっと、素朴な疑問だったのかもしれない。彼の中から化粧をするという社会的行為の概念がすっぽり抜け落ちてしまっている。寝ぼけた人間は厄介で、かわいい。そんなことを言ったことだって、きっと明日には覚えていないだろう。
まぁいいや。いろんな優越感を抱えたまま、私はアパートを出たのだった。
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