ある恋のはなし

 出会ってすぐに想いを告げられたけれど、ボクにはそんな気は全然なかった。よく知りもしない人と付き合う癖はボクにはなかったのだ。昔から、付き合うまでにとても時間がかかる。相手のことをよく知りたいし、知ってからでないと、お話にならない。
 その後、彼女を意識しなかったと言ったら嘘になる。想いを知ってる人と、一緒にいるのはなんとなく気まずかったし、なんとなく、自分が強い立場になってしまうのが嫌だった。でも距離を取るでもなく、普通に接するようにしていた。
 出会って3年後にその娘と付き合った。ボクの方から、そう申し込んだ。あなたにまだその気持ちがあるのなら、ボクのそばにいて欲しいと。あなたが必要だと。
 ふたりとも一人っ子だったことを意識しなかったわけじゃない。ボクはまだ若かったけれど、彼女はボクより11歳も年上だったから。彼女だって意識していたはず。二十歳過ぎたら年なんて関係ないのよ、と言ってた。お互い一人っ子とだとわかったのは、よく話すようになってからだ。そうなってくると、考えることを考えてしまう。
 年上だから敬遠してたわけでもないし、顔の好みもボクにはどうでもよかった。ただ『よく知らない』ということだけだった。縁あって出会ったボクらだったけれど、それが繋がるのには、何年もかかったのだ。それでも関係が壊れなくてよかった。
 出会って3年後に付き合ったきっかけ? 彼女とは職場で出会ったんだけど、彼女が辞めることになったから。そうなったら、なんだか突然に寂しくなったんだ。彼女でなければならなかった。そばにいて欲しかったから。彼女でなければダメだったんだ、とその時に気がついた。
 その後、結局は別れることになるわけだけど、歳の差も、一人っ子であることも、関係なかった。なんか、ダメになってしまった。そういうことって、あるでしょう? 歯車が一つずれると、全部が狂ってしまう。関係なかったと思ってるのはボクだけで、彼女はやっぱり、意識していたのかもしれないけど。
 それ以来、恋愛ってボクはしていない。出会いがないこともあるけれど、なんとなく簡単には恋愛できない年齢になってしまった。また恋愛するのには、時間がかかるだろう。恋愛で動くものが、自分の中にはある。そう知っているから、また動けるだろうと思ってる。

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