人間音痴

 不安に思う根拠なんて何もないのに、ただ不安になっている。そういうものかもしれないけれど、それでは困る。もっと攻めていきたいのに臆病なまま。人というものをわかっていない。このままでは駆け引きも交渉もできないだろう。機微の出し入れなんてできやしない。私は素直に感じ、素直に行動することしかできないのだろうか。本音と建前を使いこなせていない。ずっと本音でしか行動していない、発言していない。もっと戦略的になりたいのに。思惑を持って口説いていきたいのに。思い通りにしたいのに。目の前にあるのは根拠のない不安ばかり。病気なのではないかと疑う。たぶん、そうなのだろう。
 まず不安に思うことが先立って、それは根拠のないものだ、と自分に言い聞かせている。そこは理屈である。筋道を通っていけば、それが根拠のないものであるとわかる。しかし、心はおどらされている。沸き立っている。おどおどしている。うまくいくだろうか。気を悪くしていないか。失敗したんじゃないか。怒っているんじゃないか。そういう気持ちを一つひとつ消していく。思い立つことすべてについてそうしている。大抵の不安はそうして消える。なぜなら大抵は根拠がないからである。
 この先自分がどうなるかなんてわからない。でもそんなことは不安には思わない。ただただ目の前のくだらないことがうまくいくだろうかと不安になるばかりである。なんてちっぽけな人間なのだろうか。不安を抱えて生きている。いろんなことがうまくいかないのが人間だ。いろんなことに不安を抱えるのが人間だ。たくさんの当たり前を経験して、そういうものを払拭していくのが人間だ。そういうことに根本的に慣れていない。人間音痴である。
 人間を思い通りにしようなんて、甘いし大仰である。ほとんどうまくいかないだろう。自分のことだってうまくいかないのに。人には人の事情があり、それぞれに何かを抱え、何かを思って生きている。それぞれにこうしたいという何かがあり、その間に私がいてどうにもならないと呻いている。呻いているだけで、何かをしようとはしない。したためしがない。いろんなことが面倒くさくて仕方ない。そうも言っていられない事情もあり、慣れないことも多い。本当は誰とも会わず一日、本を読んで暮らしていたい。

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