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やるということ

 「君はそうしたいって言ってたけど、実際には何もしていないじゃない。なんで?」「……準備できてないから」「ふーん、それはいつできるの?」「そのうちに」「今そうしてるうちにできたんじゃないの、本当にそれをやる気あるのか疑問だよ」「やる気はあるよ。ただ今じゃないだけ」「その今はいつ来るのさ」  そう私が言うと彼は走って行ってしまった。大見得を切ってもやらない人間のことなど私にはどうでもいいことだ。それが息子だとしても。それが彼の人生である。できないとただ嘆いているだけなのか、実際にそれに向かって足掻いているのかは、見たらわかることだ。彼の生活には足掻いてるという素振りなどなかった。ただそうしたいと言っているだけで、それができるほどこの世は甘くない。そう言うことが見栄であるということもわかる。そして、彼にはおそらく無理だろう。ここで逃げている彼には、自分のやりたいことをやりきる胆力もないのだ。それが彼の人生である。  彼は明らかに私を避けるようになった。しかし、そこで避けているのは私ではなく、ただ自分のやりたいことなのだ。ふっかけてくる私から逃げるということは、自分のしたいことから逃げるということなのだ。「俺から逃げてもできないことができるようになるわけじゃないぜ」「……。」「やりたくない人間はやれない理由を探すものだよ。煽ってくる人間を遠ざけるし、どこまでも逃げるものだ」「……。」「君がやりたいなら、協力できるだろう。やらないならこのまま、自分のしたいことをできないまま人生を過ごしていたらいい。お前の人生は、俺の人生ではない」「やりたくないわけじゃないよ。ただ今じゃないだけ。今は忙しいし、準備ができていないから」「だから、その準備はいつできるの? 忙しくないときはいつ来るのさ。疲れていない時などないのだよ、人生には。いつだってお前は疲れているし、忙しい。黙っていて準備が整うわけでもない」「今すぐにやれってこと?」「やる気になっているときにしか人はやろうと思わないものだ。今この話題になって、ソファにふんぞり返っている人になら、できるんじゃないかと思うんだけど」「でも、疲れてるし……」「好機を待っていても、そんなものは一生訪れやしないよ。思ったなら、やるべきだ。やり続けるべきだ。そこに到達するまで。そうしない限り、できないことはできるようにはならないし、準備が整うことも

 僕たちは『箱』を介在させている。それでつながっているフリをしてる。日々。そこにはいろんなことがあるようで、何もないのかもしれない。会ったこともない人と、何かがつながっているような気になっている。日々。『箱』がなければそれは成り立たず、それを失った瞬間に、僕はいろんなものを失うわけだけど、それが人生の全てってわけでもない。でも、僕の一部であることは確かだ。  今夜も、あの人はそこにいるようで、いないようで。ときどき現れてはまた消えて。言葉や写真を表しては、いるようないないような。ときどき言葉を交わす。そうやって人とつながっているフリをしている、僕たちは。日々。  そこにはなんの繋がりもないはずなのに、なんだか親和しているような錯覚を覚えてる。その人たちは僕が危うくても不安でもたぶん力にはなってくれない。日々。そうとわかってるのに、僕はあの人たちに依存している。それはよくないことなのかもしれない。  ここに生きているという感覚を失っている。楽しければいいのだろうか。時間が埋まりさえすればいいのだろうか。気をふっと抜けたらそれでいいのだろうか。そういうことに人を使ってしまっているように思ったりする。  ただ僕は人とコミュニケーションを取りたいというだけで。そうやって寂しさを紛らわせてるだけで。人が呟いているのを見るだけで、言葉を見るだけで、写真を見るだけで、僕の中の何かが紛れている、ような気になってくる。そこに人がいるかもしれないというそれだけなのだ。その人が僕を思ってくれるわけでも、気にかけてくれるわけでも、ない。日々。なんでもない、日々。  身のあることをしなくてはならないのはわかってる、つもり。でも、実感としていま、そういう感触は全然ない。実体がない。  『箱』を介在させて、僕は独りをごまかしている。そこにはごまかしきれない何かがきっと在って、僕を苛む。どうしようもない淀みが溜まってる。鬱屈は晴れず、生は日々短くなってゆく。  人生をどうしたいのか、親身にならないと。このままで良いのだろうか。圧倒的に足りないことがある。できないこともある。やるべきことをやっているだろうか。やる前から諦めていやしないか。  少しずつ、一歩いっぽだ。日々だ。

ある恋のはなし

 出会ってすぐに想いを告げられたけれど、ボクにはそんな気は全然なかった。よく知りもしない人と付き合う癖はボクにはなかったのだ。昔から、付き合うまでにとても時間がかかる。相手のことをよく知りたいし、知ってからでないと、お話にならない。  その後、彼女を意識しなかったと言ったら嘘になる。想いを知ってる人と、一緒にいるのはなんとなく気まずかったし、なんとなく、自分が強い立場になってしまうのが嫌だった。でも距離を取るでもなく、普通に接するようにしていた。  出会って3年後にその娘と付き合った。ボクの方から、そう申し込んだ。あなたにまだその気持ちがあるのなら、ボクのそばにいて欲しいと。あなたが必要だと。  ふたりとも一人っ子だったことを意識しなかったわけじゃない。ボクはまだ若かったけれど、彼女はボクより11歳も年上だったから。彼女だって意識していたはず。二十歳過ぎたら年なんて関係ないのよ、と言ってた。お互い一人っ子とだとわかったのは、よく話すようになってからだ。そうなってくると、考えることを考えてしまう。  年上だから敬遠してたわけでもないし、顔の好みもボクにはどうでもよかった。ただ『よく知らない』ということだけだった。縁あって出会ったボクらだったけれど、それが繋がるのには、何年もかかったのだ。それでも関係が壊れなくてよかった。  出会って3年後に付き合ったきっかけ? 彼女とは職場で出会ったんだけど、彼女が辞めることになったから。そうなったら、なんだか突然に寂しくなったんだ。彼女でなければならなかった。そばにいて欲しかったから。彼女でなければダメだったんだ、とその時に気がついた。  その後、結局は別れることになるわけだけど、歳の差も、一人っ子であることも、関係なかった。なんか、ダメになってしまった。そういうことって、あるでしょう? 歯車が一つずれると、全部が狂ってしまう。関係なかったと思ってるのはボクだけで、彼女はやっぱり、意識していたのかもしれないけど。  それ以来、恋愛ってボクはしていない。出会いがないこともあるけれど、なんとなく簡単には恋愛できない年齢になってしまった。また恋愛するのには、時間がかかるだろう。恋愛で動くものが、自分の中にはある。そう知っているから、また動けるだろうと思ってる。

煩悶

──あの人、あの時、こんなこと言ってたわ。君のことを本当に愛してるのか、今の僕には解らない、って。これどういう意味? 愛してるかどうか解らないことなんてあるの?  ──僕にはあるよ、この人を本当に愛してるんだろうか、って。愛されてるから、愛さなくてはならないんじゃないかって、強迫観念みたいに思ってしまうことが。好かれると、自分も好きにならないといけない、みたいに思ってしまう。 ──そうなのかしら。私は真っ当に愛の表明をしてただけなんだけど、それってマズいことだったのかしらね ──そんなこともないけど、とにかく、好かれると好きになりやすいものだよ。振り向かなくても良いからずっと好きでいて良いですか? とか言われると男はコロッといっちゃうもんだよ。気にしないようにしても、気にしてしまうものだよ。どんなにその人が自分のことを知らないとわかっていても、自分がその人のことを知らなくても ──あー、それをナチュラルにやっちゃうのが、オンナってもんよね。態度でわかるもの、この娘あの人のこと好きなのね、って。目の輝きが違うわ ──態度だけで自分のこと好きだろうって感づく男はそうはいないと思うけど、そういう噂が周りまわって自分のところまで来た時にはもう落ちてるよ、大抵は ──ふーん。あの人も、そうだったのかしらね。私はストレートだったから。迷惑かけたのね ──迷惑ってことはないと思うけど。でも、愛してるかどうか解らないなんて、素敵ですね。その煩悶うらやましいな。 ──それが最後だったのよ、あの人とは。それきりよ。結局、愛してないことにしたのよね、きっと。 ──そう、かもしれません。でもそうじゃない理由で身を引いたのかも。自分の病気のこと知ってたとか。そういうこと、ないですか。 ──……。わかんないわ、もう、今となってはね。お別れよ。何もかも。

赦してほしい

 どうすれば、赦してくれる。何をしたら、何をしても、僕のことを君は赦してくれないだろ。欲しいものがあるってわけじゃないだろ。わがままじゃないってこともわかる。意固地になった君を溶かすものはなんなの。君の気に入りそうなこと探しても、どれも適わないって気がする。そういうことじゃないのだろ。  愛してるさ。  でも、それだけでもないのだろ。身体で示す。心で示す。それでも足りないのだろ。君はきっと赦さない。そんな気がしてる。  君はこのことの復讐を、君が幸せになることだ、と思ってるだろ。それでいいよ。君が幸せなら。僕はそれでうれしいさ。赦されなくてもいいのかもしれない。それはこっちの問題だから。ただ僕がすっきりしないってだけだろ。君が幸せならそれでいい。  振り向いて欲しいわけでもないし、君を奪いたい夜でもない。ただ君を幸せに『したかった』。でもそうはできず、僕はなんだか恨まれているような気になってる。  僕を赦して。君を愛せなかった僕を。  僕は自分だって愛せなかった。君はもう今は僕を愛してはいない。それはわかってた。そんな気がしてた。ただ恋に恋してる君に振り回されて。僕たちはもうメチャクチャで。自分を愛してない自分を基に、人に愛されるなんてできなかった。だから。  だから、僕は自分と同じように、君を愛さなかった。愛せなかった。そのことを詫びたい。かといってもう何ができるというわけでもないけれど。赦してくれるなら、きっと、何かが僕の中で晴れるだろう。天晴(あっぱれ)さ。  君と僕はもう関係なく生きていて、君はきっと幸せで、僕はたぶん不幸せで。これで君の復讐は成っている。だから。  だから、僕をもう赦して。僕を解放して。僕の中の君にそう言いたい。止まった時は、きっとこのまま動き出さない。そうさせているのはたぶん僕自身で。僕の中の君で。  きっと、君の海の中にずっといたいのだろう。君を想っていれば、幸せな気がするから。だから。  だから、僕は一人でいたんだ。そんな呪い。君はもう今の僕のことなんて知りはしないだろ。僕の中の君がそうしてる。もういいだろ。だから。

向き合うこと

 そこに行くとあなたは感じるだろう。死の匂いを。病室に入った瞬間に、彼の体調が芳しくないとわかる。陰気な雰囲気がある。  あなたは病室に入りたがらない。僕だけが入る。話しかけると彼は目を閉じたままうなずく。とりあえず意識はある。しかし、意欲はない。ここ数日なにも食べることは許されず、ただ病室で横たわっているだけの彼。こんな夜をどう過ごしているのだろう。死の影を感じたりしているのだろうか。  あなたはため息をつく。これからどうなるのかわからないでいるのかもしれない。転院を繰り返し疲弊しきっている。少し思い詰め過ぎているのだ。気を抜かなくてはならない。  あなたは病院にはなるべく行きたくないのだ。弱々しい彼を見たくないから。元気な彼であったなら、足取りも軽い。しかし、今はあなたの足に碇がついてしまってる。  立ち込める匂いに、あなたはたじろぐ。もうここに居たくないと思う。せめて僕はしっかりしなくてはならない。へっちゃらでことを進め、彼に話しかける。彼はうっすらとうなずく。あなたは入り口に立ち尽くしている。目を閉じた彼にあなたの存在を知らせようと僕は気を使う。  そこでようやくあなたは部屋に入り、彼に話しかける。彼は意思を蕾んだまま、そこにいる。応答はそれほどしない。あなたは怯えた声を出している。今にも消え入りそうなか細い声。これが彼に届いているのかもわからない。ただ私には聞こえた。  励ましもせず、慰めもせず、体に触れもせず。ただ「今日は無理だよ……」というあなた。「帰ろうか」。  今日は彼の体調が悪かったのだ。  いま目の前にあることから目を背けたくなる気持ち。向かい合うことは苦しいことだ。そして、逃げることはどこまでも簡単なことだ。  あなたといえども逃げ出してしまうほどに、死は尊い。そこには誰も立ち入れない。そこは、彼だけの聖域。向かって行くその場所を、いまきっと見定めている。  見つめてる。立ち込める匂いを。自尊心を。尊厳を。

僕が空を見上げるわけ

 どんな生活をしていようとも、きっとみんな毎日を同じように送ってる。病院でぼーっとするような日々でも、誰かのため精を出しても。人は日がなほとんどを習慣で過ごしてる。毎日を新しい場、新しい人、新しい言葉、新しい仕草、で過ごす人ってのは滅多にいない。それに対して飽きるとか嫌気がさしてしまうとかはまた別の話だけど。でも、多くの人が毎日を同じようにして過ごしてる。たまにあるはずの例外をみんな求めているのかもしれない。  でも、僕はなんとなく空を見上げてしまう。この宇宙の広さからしたら、僕がいま持っているこの気持ちなんてどうでもいいことかもしれない。それでも僕は『そうやって』生きていく。だって、そうでしか生きることができないのだから。  でもね。ときどきにでも宙を見上げると、心がスッとする。全てを投げ出したっていいんじゃないかと思える。有り金叩いて、仕事も全部キャンセルして、どっかに旅立ったっていいんじゃないか。そうすることが、自分にはできるんじゃないか、と。  そんなことを思わないわけじゃない。ただ僕は空を見上げてる。空には雲が在って、風が吹いている。その雲の向こうには宙があって、途方もない空間が広がっている。そこでは僕にはなんの肩書きもなく、仕事だって関係ない。ただ一人の地球人でしかない。いや地球人ですらないかもしれない。ただ動物。ただ生命体。いろいろなしがらみなんて、そこには関係ないのだ。ただ在るだけ。それは、雲と風と同じ。  そんなことをぜんぜん思わないわけじゃない。ただ在ることを確認したら、それでおしまい。虚空をちょっとだけ眺めて、僕はまた元に戻る。いえには家族がいて僕の帰りを待っている。元の生活。元の社会。  ときどきそういうものを意識の上で飛び越えて、僕は成り立っているのかもしれない。つまり、それさえも習慣のひとつなのである。そうやって、ときどき行ったり来たりしながら、また日常に戻っていく。  そうすることが当たり前だから。そうすることが正しいことだから。そうすることが、誰も悲しまないことだから。  今日も独り空を見上げる。ありふれた毎日を飛び越えて。僕は空に飛び立つ。空を想う。

きょうの神様

 外に出ると木枯らし。強い風が吹くと、いつも誰かが通ったかのように感じてる。そこにはきっといるのだろう、「きょうの神様」が。  父は入院してからというもの、冗談を言うことが多くなった。それがこの閉鎖空間でうまくやっていくための秘訣なのかもしれない。あるいは本当に気が触れてしまったか。はたまたあるいは寂しいのかもしれない。看護師さんを笑わせている父を見ると和む。家では滅多に冗談なんていう人間ではない。それが人が変わったように冗談を連発してくる。本人が笑うことも多い。一見明るくように見えて良いように思えるけれど、やはり、病院生活はつらいだろう。昨晩、血圧がとても高かったんだ、と言う父は、とても不安そうだった。でも彼は命を落としたわけじゃない。「きょうの神様」がそうはしなかったのだ。明日はどうなっているかはわからない。今日より良くなっているかもしれないし、明後日はもっと悪くなっているかもしれない。いい日になるといい。  家に父がいない日が続く。家はとても静かで、物音がするたびにそれが母が起こしたものだと見当がつく。父がいる時と変わらない生活をしているようで、そこかしこに違いがあるはずなのだ。父のいなくなった居間の机の上を整理し、父の和室を二人で片付ける。父がいないからといって変わったことは何もないとはとても言えない。いつも居た人間が一人いないというだけで、こんなにも心情が変わるものかと驚いている。それは、それが父だからだ。父のしていたことを一つひとつ思い出しながら、いろんなことに不便が出ないように気を使っている。もちろん、入院している父自身に対しても。いろんなことに気を配ることは、楽しいことでもあり、苦しいことでもある。気を詰めないようやっているけれど、不便を被るのは自分であり、家族であり、父であり母である。気を配り損ねて、今日は少し大変な思いをした。でも、大事には至らなかった。「きょうの神様」がここにもいた。いい日になるといい。  歩いていると、幼稚園児が母親と共にこちらに歩いてきた。正確には子どもは走っていて、母親は歩いている。目の端で眺めつつ歩いていると、子どもが転んだ。でも、子どもは泣かなかった。母親も特に騒がず、膝をはらって、そのまますたすた行ってしまった。子どもはまた元気に走って行った。「きょうの神様」が癇癪を閉じたのかもしれない。あの児は幼稚園で元気に

けしかける人

「できないんだー?」 「できないよ」 「ふーん」 「なんだよ?」 「いやー、別にぃ?」 「……。」 「ふーん。そこで黙るんだ?」 「できないものはできないの! 俺じゃ無理」 「そうかなぁ? あたしはできると思うけど」 「いや、無理だよ」 「やってみなよぉ。やってみたことあるの?」 「ないけど。無理だよ、どうせ」 「んじゃ、やってみなよ! できるかもしんないじゃん!」 「そうかなぁ? できないと思うけど」 「いいからいいからほら。今すぐでなくても、きっといつかできるようになるよ」 「うーん。できたらいいとは思うけど……」 「ねっ? やってみたらできるかもよ? やろうとしなくちゃ、一生できないままだよ」 「そうだけどぉ」 「どうせ自分には、とか考えてる暇あったら、どんどんやろ! やんなきゃできないでしょ!」 「できないのが怖いんだよね」 「大丈夫だよ。今できなくても、いつかできるよ。きっと。そのための一歩目だよ、今日は」 「初めからできる人なんていないのかなぁ」 「そうだよ、ほら! やったやった!」

嗾(けしか)ける人

 私はあなたを嗾(けしか)ける。あなたは私を嗾ける。そうやってDNAのらせん構造のように上ってく。互いがいなくてもたぶん僕たちはうまくやるだろう。でも、あなたがいた方がきっとより速く上がれるだろう。気づけることもあるだろう。  互いに欠けた部分を補いあって僕たちはのぼってく。二人でいるから正しくなれる。  一人でも生きられるが、誰かと生きるならあなたがいい。その方がより正しく生きられる。できないことを補完しあって、僕たちは生きていく。  信じることは、誰が相手でもできるわけじゃない。あなただから、できるのだ。あなたでなければならないのだ。 *** 「できないんだー?」  その一言でいい。それだけで私の心に火をつけるのに充分で。それだけで私がやる理由として充分で。心が動けば動くほど、私は躍起になるだろう。自分の実力以上の力を発揮できるだろう。そうやって僕は上って行きたい。できなかったことができるようになる時、私はあなたのことを感じてる。  ──君に請われることの、うれしさよ。  望みを叶えることを、惜しみたくない人。どんなことでも叶えたくなる。すべて口惜しいことは君の望みを叶えられないこと。できうる限りをしたいと思う人。 ***  無言の要望でもいい。私がしないときに、(できないんだ)と思う、それだけで私は躍起になる。ただあなたがここに存在していることが、私の成長につながっている。限界突端の発端なのだ。やる気になるのだ。なんだってできるのだ。  ──だからやるのだ。  ただいるだけで、それだけで。あなたを感じることが、私を躍起にさせる。 ***  嗾けること。私だけの到達点は、二人でなら簡単に超えるだろう。二人三脚の方が速く、遠くへ行ける。一人ではいけないところへ行ける。二人だからできること。二人だから行ける場所。  僕はそうしたい。そうしなければならない。そうしなければ気が済まない。そうでない時間なんてありえない。  ただ、君を想う。

訥々I Love You

 私に気づかせて。私の知らないことを。見えていないものを。感じていないものを。  私に気づかせて。見失っていたものを。これから大事なことを。  私に気づかせて。すでに出会ってたことを。 ***  感化すること。啓発すること。嗾(けしか)けること。  あたしの思い通りに生きれば良いと、その不遜さはいらない。ただ自分の正しさを相手にも正しいと納得させること。時に話し合い、時に議論し、激昂し。何が正しいのか、その到達点を共有したい。  私の正しさとあなたの正しさが合わされば、きっとより正しいだろう。  私の見えている世界と、あなたの見えている世界が合わされば、きっとステキだろう。 ***  私を嗾ける人が好きだ。そのためなら、見くびられたってかまいやしない。  あなたはいつも私を感化して。嗾けて。  それによってわたくしは、生きることができる。  あなたのいうことなら、納得できる。なんだかそんな気がする。そう思えることが、私にとっての愛の証明なのだ。無条件降伏するつもりはないけれど、今までのあなたはとりあえず、私にとって大まかに正しかった。  だから上手くやれるはず。  あなたが嗾けるなら、私はやるだろう。嗾けなくてもやるだろう。だけれど、その要望が、私にはうれしいのだ。喜びなのだ。やるのなら、あなたを想ってやった方が上手くいく。必ず。  あなたの影を感じながら、あなたを追いかけていたい、追われていたい。  そうすることが、人生に於ける、私のこの上ない喜びなのです。 ***  私の正しさとあなたの正しさと合わせたら、きっと上手くいくだろう。僕たちは、互いを補完しあって生きていく。そうでなければ生きていけないと思えるほどにその正しさは精巧である。私はあなたがいなければ、あなたは私がいたら、その正しさに到達できる。互いが互いを必要とし、絡まり合って生きて行く。絡まり合って死んで行く。どうあってもうまくいく。どうあっても納得できる。どうあっても生きていける。この二人なら。 ***  だから私はあなたを嗾けるし、あなたは私を嗾ける。そうすることで僕たちは螺旋状に登ってく。やがて高みに到達するだろう。  互いを感化しあっていく。知らないことを知らせ、見えていないものを見せ、感じていないことを感じさせるのだ。

持つ者、持たざる者

「何も考えずにそれをしているってのが、まるわかりだよ君は。考えてないでしょう」 「そんなことないって? 誰だってそういうよ。きちんとコメないと、伝わらないよ。そういうことは、相手にはわかるものだよ。こいつ手を抜いてるなぁって」 「やる気ないなら、さっさと諦めて次に行ったほうがいいんじゃないの。あなたがどのくらい他のことができるのか知らないけど。やればできるんじゃないの」 「たまたまこれはダメだったというだけでさ、そんな大したことじゃないよ。きっと何かがあるはず。打ち込めるだけの何かが。それをできるだけ早く見つけることだよ」 「やる気がないように見えるのは、損だと思うけどね。あるんだかないんだか知らないけど。気持ちは大事だと思うよ。どうやってそれに取り組むのか、っていうさ」 「何も考えていないのは簡単に人にわかるよ。こいつ路頭に迷ってるな、やる気ないな、って」 「気持ちさえあれば、叱ったり、諭したりできるけど、何も考えていない人には何もいうことはないよ。どっか他へ行けば、って感じ」 「やる気がないなら去れとは言わないけど、志もなくやってても仕方ないんじゃないの」 「自分のやる気になることなんていくらでもあるはずだと思うけど。なんとなくやっているんだったら、誰の為にもならないんだよ」 「どうこれに取り組むかってこと。何を目標にしているかってこと。どう思ってやっているのかってこと」 「自分で疑問に思って、課題を立ててくことでしか成長なんてないだよ」 「人の言うこと聞いてるだけじゃ、自分のやりたいことなんて一生できないよ。こき使われるだけの人間になる」 「やりたいことなんて一切なくて、ただ人の言うこと聞いてるだけでいいってのならいいけど、そんな人と一緒に居たくないよね、普通は」 「やる気を出せって言うのは簡単だけど、それ言われて出た人なんて見たことないからね」 「一生、人のいいなりになって生きるのも、人生でしょ」 「志って言葉も曖昧だけど、それがなければ、たぶんやっていけない」 「生きる覚悟はあるか、ってこと」 「つまんない人生を生きるのもいいさ、他人の人生だもの」 「自分で切り拓いてくことでしか、見えないところもあるさ」 「変化したらいいってものでもないけど、そのままなら、そのままだ」 「どうしたいのかって、もっとよくいろんなことを

片麻痺(へんまひ)

 父が倒れた。救急車を呼んで、入院することになった。診察によると糖尿病による脳梗塞らしい。半身麻痺が出ていて、リハビリ次第だが障害が残るかもしれない。今は左手足に力が入らない状態。一人でトイレに行くのにも不自由している。  私も障害者であった。ほんの1ヶ月前まで。入れ替わるように父が障害者となりつつある。私はずっとサポートしてもらってきた立場であるので、これからできる限りの事をしたい。  今はなんでこんなに甲斐性を持てるのだろうと不思議に思うくらいに、父のことを考えてしまう。「父」はこの世に一人しかいない人間である。こんなに自分の親父のことについて考えていることがあったろうか。不自由してないだろうか。何か欲しいものはないだろうか、考えてしまう。できる限り快適に過ごして欲しい。こうして夜に何もできることもなく、時間を過ごすこともできずにいると思うと、居ても立ってもいられない。  今日は3回病院に通った。着替えを持って行ったり、スマホを持って行ったり。家から5分のところに病院はあるので通いやすい。思い立ったらすぐに行ける。一日に何回でも行ける。  父は今、少々鬱っぽくて会っても笑顔をほとんど見せない。うなだれて、寝ているでもなく、起きているでもなく。ぼーっとしている。何を考えているのだろうか。病室のカーテンはどれも閉ざされていて、一つひとつの空間は仕切られている。  2回目に行った時、スマホを操作できずに「指が動かせねぇや」と笑っていた。私は緊張していた。午前中に面会に行った時、ちょっと悪い空気になったからだ。父も自分の不甲斐なさにイライラしているし、母はできることをしようとしているのだけど、それがうまく噛み合わなかった。午後は私だけで行った。笑った父を見たら、少しだけ安心した。なんでか食事を摂っていないので、時間とともに元気が無くなっていく。1度目に行った時に見せていた回復への意欲も、2回目には失せていた。3回目はもっとであった。明らかに落ち込んでいるな、とわかる。何をするでもなく、考え事をしているのだろうか。この、今の時間も、何をしているのだろう。  3回目の面会で部屋がナースステーションに近いところに移っていた。それだけ看護師さんにご厄介をかけているということかもしれない。今すぐに何かあるってわけじゃあない。歩けないのでナースコールを押す回数も多いのか

世の中にいる人たち:眠れない夜に母が話してくれたこと

 眠れない夜に母が話してくれたことには。 「あなたが思ってるよりも、世の中は良い人に溢れているのよ」 「そうねぇ。知り合った人に良い気分でいてほしいと思うような人。人に良いことをするのは自分も良い気持ちになるものよ」 「出会った人がたまたま、嫌な人だったからといって、すべての人がそうというわけではないの。あなたを嫌いな人もいるし、そうでない人もいる。あなたに関心のない人だっている」 「あなたを嫌いな人と無理して付き合うことないのよ。離れられるのならそうした方がいいこともあるわ」 「それにね、今まではあなたを好いていたのに、ある瞬間から全く逆の気持ちを持ってしまうこともあるのよ」 「そうなったら、身を引くことよ」 「大きくなると着られなくなる服があるように、人も合わなくなったりするものなのよ」 「それは、誰が悪いってわけじゃないわ」 「人は誰だって愛されたいものなのよ。それに、愛したいものなの。そうすること、されることを求めているものなの」 「そうするために、いろんなことをするし、そうされないから、いろんなことをしてしまうのよ」 「あなたに危害を加えた人にも、きっと理由があったのよ。それをどうしても知らなくてはいけないということはないけれど、世の中にはそんなに理不尽なことなんてないのよ。たまたまあなただったということはあるけれど」 「人はみんな同じ方を向いているわ。愛されたいし、愛したい。それを叶えるためにいろんなことをするの。してしまうの。このことを忘れないで」 「あなたも、愛せば、きっと、愛されるわ。きっとね」 「どうにもならないこともあるけれど、それを知っているだけで楽になるということだってあるのよ。覚えておいて」

認められるために

 認められるということは、自分のしたことを人に見てもらって頷いてもらえるということだ。私たちはきっと、いろんな人に認めてもらうことができて初めて生きることができるのだろう。最初は両親から、その後生きていくうちに出会う人たちから認められることでなんとか自分を保っていくことができるのだ。それなしには人は生き場を失うだろう。今うまく人に認められないとしても、自分のやりようによっては、また他の人に頷いてもらえるかもしれない。そうなる可能性を閉ざしてはならない。いつも開いていることが肝要なのではないか。  彼は、無意識に人に認められたいと思って生きてきた。しかし、認められるべき行動をとっていなかった。つまり何もしてこなかったということだ。なぜ自分が誰にも相手にされないのか思い悩むということもなく、淡々と生きてきた。でも、どこかで認められたいと思っていたのだ。そういう欲求を人は隠し持っているものだ。その気持ちが満たされたらいいのにとどこかで思いつつ、歳を重ねていく。こうしたいということもなく、やらなければ気が済まない何かもなく、月日は経っていく。誰からも認められることもなく、ただ生きている。そうやって生きることだって、人にはできるものだ。恵まれてさえいれば。しかし、それは生きていると言えるのだろうか。どこの誰からもその存在を認められていないという人間。戸籍には登録され住む家もあるという形式上の認可は得ていても、誰も彼を知る人はない。ただ独りの人。  何かするということの意味を。人と関わるということの意味を。人に頷いてもらえるということの意味を。  何かするから認められる芽があるわけで、そうでなければ、人に頷いてもらえることなんてない。何もしない人間が認められるなんてことは、たぶんない。そして、何かした人間が必ず認められるというわけでもない。しかし、何かしなければならない。それは人の中に生きるためである。生き場を見つけるためである。  彼が認められるためには、自分を開かなくてはならない。出て行かなくてはならない。自分のすることの一挙手一投足を精査しなくてはならない。できることをし尽くさなくてはならない。人の心を射抜かなくてはならない。  そうしようと思わなければ、それはできないことだ。認められたいという自意識をまず自分が認めること。それから、すること。大抵でないことを。

掴む

 例えば、の話をまず書くので読んでほしい。  用を足しにいってなかったら私は死んでいただろう。『そこにいた人』はみんな爆風と爆音に巻き込まれて居なくなっていた。私はカフェでコーヒーを注文していただけだ。コーヒーが出来上がるまでの数分をトイレで過ごすことにした。それで私の運命は変わってしまった。というよりも、無くなったはずの生がそうではなくなったのだと思う。 ***  とりとめのないことで人生は変わるものだ。その生死を分かつデッドラインは見えることはない。どこに存在しているのか、その一歩だって命取りになるということはありうるのだ。  命を分けなくても、何かを分けることはある。あの日、本屋に行ったからこの本と出会えた、だとか。たまたま散歩していたら旧友とばったりあって、運命が変わった、だとか。そういうほんの些細なことの中に、何かがあるのだとしたら。それを掴むのは、どういう人間なのだろう。限られた出発点から誰だって始まっていく。誰だって一つのきっかけから、何かが始まっているに過ぎない。たまたま、トイレに行った。たまたま、外を歩いた。たまたま何かを得た。幸運というにはそれは野暮である。何かがある。その人は掴んでいる。  それは生かもしれないし、はたまた死なのかもしれない。そんなに大げさでなくても、それは一生を左右する出会いかもしれない。極限状態──つまりは戦争であるとか──では生死を分かつことなんて簡単で、そういう感覚はどんな時にでも役に立つはずだ。この瞬間、逃してはならないという嗅覚。それは場数を踏んでいるから得られるのだろうか。  この出会いを、この場を、この瞬間を、逃さないということ。  それは本当にたまたまなのか。トイレに立つことが生死を分ける瞬間があるのだとしたら、人の生という儚さを私は恨む。それは私でなければならなかったのか。なぜ他の人間ではなく、私なのか。誰がそれを選んだのか。  それは紛れもなく私である。掴んでいるのである。  人は皆、選んでいる。トイレに行く間を。外に出るということを。人と会うということを。本を読むということを。知らず知らずのうちに選択している。そうやって時を超えて、人生は成る。成るも成らないも、本当には自分次第であるはずなのに、そうはしない。言い訳することはあまりに簡単で、運命を人に託してしまうことほど安易なことはない。

ゆらめかせる

それは、雲のながれ それは、台風の残りび それは、映える朝陽のスクリーン それは、心のざわめき それは、歩みを進めるきっかけ それは、出逢い それは、けしかけてくるおんな そして、それが風であることを知った *** 風は、暴れながら人を叩く 風は、炎をけしかける 風は、別れさせる 風は。ゆらめかせる、戦旗を。

違反

「なんであのおっさん、スキンヘッドを黒く塗ってるの……」 「しーっ! あの人、高校教師で、生徒指導の一環でああしてんだってさ」 「どういうこと?」 「だ、か、ら! 生徒指導係りなんだって。それで生徒が染色するのを理不尽に注意してたら、ある日生徒に言われたんだって」 「なんて?」 「先生は白髪染めなくていいんですか? って。示しがつかないから染めたら、頭皮が痛んでハゲちゃったんだって」 「それで?」 「それでも生徒に突っかかられて、ああしてんだってさ」 「むごいわー。笑っちゃ悪いかな。帽子かぶればいいのに」 「ねー。あれは校則違反じゃないのかな(笑)」 「マッキーで塗ってるのかな? かぶればいいのに」 「最初はかぶってたんだけど、髪型はうるさくいうのにズラはいいのかって詰め寄られたんだって」 「かわいそー(笑)」 「マジックで塗るのはいろいろ違反だよね。もうどうしようもないじゃん? 育毛しないのかな」 「頭皮が死んでるんじゃない? あっ!」 「睨まれたね(笑)説得力皆無(笑)」 「どうやってあれで威厳を保ってるんだろう。ネタじゃん?」 「あっ、こっち来た(笑)」 「なんで帽子被らないの?」 「知らない。被るとムレるんじゃない? インクが落ちるとかさ(笑)」 「すげぇ。遠くからだとパッと見、わかんないもんだな」 「近くで見ると異様だよね」 「ちょっとね。何が正しいことなんだかわかんないね」 「黒けりゃいいのかよ(笑)」

いなくなった君

 道で人とすれ違う時、この人は君なんじゃないかと思う時があるよ。電車の中に座ってる人、本屋で本を眺めてる人、みんな君なんじゃないかと。ちょっとドキドキしたりして。でもそんなわけがない。どの人も、わたしとは無縁の人ばかりで。いや、すれ違う人と仲良くなりたいとか気を持ちたいとか、そんなことではないのよ。ただ、あれは君なんじゃないかと思ったりする。  君はたぶん、どこにでもいて、なんでもしてて、ある時は通ってる病院の看護師さん、ある時はスーパーのレジ打ち。魅力的な人だからそう感じるとかじゃなくて、君と同じ性の人を見ると、なんとなく君を感じてしまう。もしかしたら誰だっていいのかもしれない。都合よく自分の中の君と、その場にいる人をダブらせているだけなのだけど。  本当に誰でもいいのかもしれないと思って、そういう自分の浅ましさに凹んだりしてる。誰でもいいわけはないのに、どんなところにもいる君を思うと、わたしは誰でもいいのではないかと思ってしまう。君を想像するから、その像さえあれば誰でもいいのだ。これって不思議な感覚じゃないか。いろんなところにいる君に、君が宿っているように感じてる。たぶんその君に話しかけても、決して君ではなくてただその人なのだ。わたしの知らない赤の他人なのだ。でも君はそこにいるような気になってくる。  夢でもないし幻でもなくて、ただ幻想として君を欲してる。そこに君がいるような気になってくる。そうであればいいと思ってる。でも、そうじゃない。君は一人しかいなくて、それは決して代替不可能で、つまり君でなくては駄目で。でも君はいなくて。  どこにいても何をしてても寝ても覚めても、君を求めてる。だから、人を見ると君だ、と思ってしまうんだろう。こういうこと、『愛してる』っていうのかもしれない。愛してる。そう言う前に、君はいなくなってしまった。だからこそ、求めてしまうのだ。君を。どうしても逢いたい。愛してる。  今日も、『君』とすれ違う。そうかもしれないと思いつつ、でも違う人だと知っている。紛うことなく違うのだ。しかし脳は身体は全身が君を求めてる。そのことを止めることができない。どうしたって街の人に君を見出してしまう。  君よ。  いなくなった君よ。  いま、どうしてるのだろう

成長

「たね、うえたよ」 「そうだねぇ」 「あした、きはえる?」 「明日には無理だなぁ。まだ数年は掛かるよ。君が大きくなる頃には実が生るんじゃないかな」 「おいしい?」 「たぶんねー」 「うふふ、いいねー。おいしいの!」 「君と背ぇ比べだね」 「ぼくのほうがおっきいよ!」 「ふふ。今はね」 「ビワのほうがおっきくなる?」 「なるねー」 「ぼくのほうがおっきいもん」 「だねー」 「あしたには、はっぱでる?」 「うーんどうだろね。まださきかな?」 「おみずあげる?」 「そうだねー。あげすぎないでね」 「ぼくもごはんもたべるよ」 「君も大きくなるね。競争だね」 「トトロみたいにたいそうしたらはえてくるかな?」 「かもね。やってみたら?」 「うん! おとーさんもやって。ほら」 「とーさんも? いいよ。ほーら」 「でるかな?」 「今すぐには出ないよ。芽は簡単には出ないんだよ」 「ぼくもおっきくなるのにじかんかかる?」 「そうだねー」 「どのくらい? あした?」 「明日には少しは大きくなってるかもね。子供の成長は早いから。芽も出るかもね」 「いつたべれる?」 「うーん、実はまだ先だなぁ。君が大きくなる頃には食べられるよ」 「はーやーく、おおきくなるといーなー」 「待ち遠しいね。君もビワも」